インターネット広告事業などを手掛けるサイバーエージェントが2007年に100%出資して設立。インターネット広告の配信効率を上げるためのシステムを提供するアドテクノロジー企業として、業界をけん引してきた。その後もマーケティングを軸に、データ分析や顧客企業の業界に特化したコンサルティングなどもおこない、国内は東京本社を含めて7拠点、海外では台湾に拠点を保有している。売上高128.6億円、社員数約420人(関連会社含む)
※2022年6月に東証グロース市場上場
※2023年9月期企業詳細:コーポレートサイト
デジタルマーケティング業界で最先端を行く会社
創業時より、マイクロアドは常に一歩先の未来を見据えて道を切り拓こうとしてきた会社であり、インターネット広告の効果的な配信とメディアの収益最大化を図るアドテクノロジー分野の先駆者として知られる企業です。現在では、インターネット広告の枠を超えて、膨大なデータを活用したさまざまなマーケティングプロダクトを提供する「データカンパニー」へと事業を拡大しています。また、インターネットユーザーにおけるWeb上の行動履歴等の蓄積に加え、2015年以降は、さまざまなデータを使った精度の高い広告配信をおこなうため、Vポイント(旧Tポイント)の保有企業や、キャリアデータを保有するソフトバンクと提携。この提携を機に、オンライン・オフラインの膨大なデータを収集する基盤「UNIVERSE(ユニバース)」の構築を開始。さらにはその他のデータ保有企業との提携も進め、膨大なデータを駆使して顧客となる企業に最適化したマーケティングの提案ができる体制を整えています。そして、アドテクノロジーの企業という殻を破り、データ分析力を活かした、インターネット広告やコンサルティングなど、幅広いマーケティングサービスを展開する「総合データカンパニー」を目指し、歩み始めています。今回語っていただくのは、マイクロアドのコーポレート本部(人事部コーポレートデザイングループ マネージャー)の緒方慎吾さんです。急速な変化への対応を求められるWebマーケティングの世界で、常に最先端を走り続けるマイクロアド。その事業の内容と方向性について聞いていきます。
編集部が注目する3つの数字
編集部は今回、マイクロアドに関する数字に注目してみました。
提携するデータ保有企業数210社
210を超えるパートナー企業やメディアから提供を受け、データプラットフォーム「UNIVERSE」に多種多様なデータを集約しています。データ内容は、ビジネス系・金融系・ライフスタイル系・位置情報やレシートデータなど、多岐にわたります。収集したデータを分析・活用し、BtoB企業・飲料食品・自動車・自治体向けなど、現在では19の業種それぞれに特化したマーケティングプロダクトを展開しています。
サービスを通じた広告配信は月間580億回
インターネット広告を掲載するメディア企業向けの広告収益最大化サービス(SSP)として提供しているのが「MicroAd COMPASS」。累計2,000社を超えるインターネットメディアに導入されており、多くの広告配信プラットフォーム(DSP)と接続している。このサービスを利用して多くのメディアサイト上で実施される広告配信は月間580億回にも及びます。
売上高128.6億円
2023年9月期の売上高は、128.6億円。2024年も「UNIVERSE(ユニバース)」を軸としたマーケティングプロダクトも引き続き成長を続けています。
事業内容
Q.まずは事業の概要を教えてください。
日常的にインターネット上でニュースや芸能情報、旅行やコスメなどのメディアを見ることがあると思いますが、その中で自分の興味関心に合った広告が流れたことがあるのではないでしょうか。広告はみなさんの過去のインターネット上におけるアクセスの状況などから、趣味や考え方に合っていると思われる内容が流れるようになっており、その仕組みを形作っているのがアドテクノロジーです。配信する内容を選定する仕組みの精度が低ければ、皆さんにとって興味や関心がない広告が配信されて邪魔になるだけです。また広告主にとっても温度感の高いユーザーにアプローチできないため、手間とコストの無駄遣いになります。精度の高い広告配信技術を駆使して、そうしたミスマッチがないようにするのが重要になります。マイクロアドは、広告主や広告代理店とインターネットメディアの間に立ち、自社で開発してきた技術を駆使して最適な広告配信と、メディアの収益化支援を実現してきました。
Q.インターネット広告の力で、どんなことができるのですか?
ユーザーのインターネット上の行動データなどを分析して、ユーザーはいまどんな情報をほしいのかを予測。そして、商品の認知向上や、モノやサービスの購入につながりやすい広告配信の内容とタイミングを見極めて実行します。マイクロアドではSNSへの広告配信も対象としていますが、主力は一般のウェブメディア媒体です。ビジネス系やスポーツ系、美容系、ニュース系など人々が日常で閲覧する、さまざまなウェブメディアをメインの対象にしています。たとえば都内から30代男性が高級外車のメディアにアクセスしているデータがあるとします。このデータだけでは「高級志向の30代独身男性」とも受け取れます。しかし、そうしたウェブデータだけでなく、UNIVERSEのもつ位置情報や購買データも掛け合わせて分析するのがマイクロアドの特徴です。位置情報を見れば主な拠点を郊外に持つ人であることがわかり、購買データを見ると意外に倹約家だと推測できたり、子供のおもちゃを買っているデータが重なれば、どうやら父親らしいと想像できます。少ないデータでは「高級志向の30代独身男性」と推察しかねないのですが、よりデータを増やせば「一般的な家庭の30代パパ」といった実像に迫れます。そこまでわかれば高級外車の広告を配信するより、燃費の良いファミリーカーの広告を配信すべきと判断できます。このように、データを重ねることで真のユーザー像が見えてくるのです。また年齢や性別、既婚か独身かなどのデータに、引っ越しや結婚式関連のデータを重ねれば、新しく家電製品が必要になるタイミングも予想がつくでしょう。
Q.どれだけデータを重ねられるかで精度が全然違ってくるのですね。
こういった大量のデータを使った多角的な分析ができるマイクロアドの特徴を作るために、自社のデータ蓄積を増やすだけでなく、210社以上のデータベースと連携して、そのデータを活かせる体制を整備しています。ちなみに、この場合のデータとは個人情報ではなくログと呼ばれる単なる数字が並んでいるデータで、これを自社で加工してマーケティングに有用な内容に変換して活用しています。UNIVERSEが連携するデータには、ビジネス系・金融系・ライフスタイル系などのメディアデータだけでなく、位置情報データや、レシートなどのデータも含まれます。
Q.膨大なデータを取り扱うことになりますが、収集して蓄積するだけでも大変な作業ですね。
自社の保有データと約210社からのデータを納め、必要な時に取り出せる「箱」のようなものを用意しています。いわゆるデータプラットフォームで、当社ではUNIVERSEと名付けたデータプラットフォームを使っています。このプラットフォームは多面的なデータを収集・分析できる多次元データベースという構想を掲げて自社開発したものです。膨大なデータを納めたUNIVERSEからは、モノやサービスの効率的な販売に生かせるさまざまなデータを引き出せます。各企業が自社で保有する消費者データには限りがありますが、マイクロアドは消費者データを保有する数多くの企業と連携することで、幅広い分野の、しかも細かいデータを収集しています。だからこそ、分析次第で非常に有効な活用が可能になるわけです。
Q.一口に分析次第でと言っても、かなり複雑で難しい作業になるのでしょうね。
そもそもが複雑な作業ですが、加えて業界によって課題やユーザーの動向が異なることも複雑さに輪をかける要因です。たとえば自動車は大きな買い物ですから、ユーザーが即決することは少ないでしょう。車種別の人気ランキングを見たり、燃費を比較したり、ボディタイプに迷ったり、さまざまな角度から検討を重ねてようやく購入に至ります。ユーザーがいま何に迷って何を考えている段階なのかをじっくり見極めなければ、適切な広告配信はできません。ユーザーは購入に関心を持ち始めた初期段階なのか、購入を決心する直前の段階なのか見極める必要があります。そこに自動車保険の比較サイトにアクセスしているデータが重なれば、いよいよ購入の最終段階に近づいていると予測することもできます。これが化粧品や美容関連業界になると話が変わります。「キレイになりたい」など、女性の美に対する関心が高まる状態と考えられる「ときめき」を捉えたときが広告配信のベストなタイミングで、データを分析してときめいている瞬間=購買意欲が高まっている瞬間を素早くキャッチして広告を配信しなければなりません。このように、それぞれの業界ごとに事情がありますから、マイクロアドではUNIVERSEに集約したデータを使って、それぞれの業界に最適な分析をおこないアウトプットできるよう、業種特化型のプロダクトを用意しています。自動車ならIGNITION、美容・化粧品ならVesta、BtoBのシラレルなどといったプロダクトがそれです。
Q.分析してアウトプットした内容の提供先は、メーカー以外にどのような業界がありますか?
広告配信の効果計測としてのアウトプットとしては、自動車会社などのメーカーはもちろん多いですが地方自治体やEC事業者に対しても提供しています。自治体でいえば、国内外の観光客誘致のためのプロモーション支援のほか、ユーザーのライフイベントに関連する「移住・ふるさと納税・帰省」などの需要に対して、地方自治体のニーズや課題に合わせたマーケティングサービスを提供しています。広告配信の分析結果として、ユーザーの興味関心傾向、比較検討地域や目的、来県計測などを可視化したレポートを提供。今後のプロモーションに役立つアウトプットをおこなうことで、未来の話を含めたコンサルティングまでをパッケージ化して提供しています。
競合・強み
Q.マイクロアドにとっての競合他社はどういった企業でしょうか?
デジタルマーケティングのサービスという意味で、一つひとつのサービスを見れば同業他社は存在します。しかし、それぞれ強みや領域が違うと認識しているので競合会社はないと思っています。
Q.領域が違うとはどういうことですか?
デジタルマーケティングには2つの領域があります。
ひとつはダイレクト広告の領域。これはAmazonや楽天市場のようなECサイトなどのオンラインで購買が完結するネット系企業のための広告領域です。もうひとつがブランド広告の領域。これは自動車や飲料、食品など実店舗での製品提供をおこなうメーカー企業のための広告領域です。この2つのうちダイレクト広告の領域は、短期間で広告成果も出やすいため多くのアドテクノロジー企業間での競争が激化してきています。ところがマイクロアドが強みとするブランド広告の領域は、より時間をかけた綿密な広告戦略が必要でノウハウの蓄積も求められるので、プレイヤーが少ないのです。またブランド広告はブランド認知度の向上やブランド理解の深化が目的で、これまではテレビCM、新聞・雑誌広告などの大勢の人に宣伝できるマス広告がその役割を担っていました。ところが、旧来型マス広告から、広告のデジタルシフトが進むなかで適切な広告手法を広告主も模索している状況にあります。その空白を埋められるだけのデータとノウハウの蓄積があるのが、この分野で実績を積んできたマイクロアドの強みです。
Q.でもこれから有望な分野ならば新規参入が増え、競争も激しくなってしまうのでは?
ブランド広告への新規参入は簡単ではありません。そもそも膨大なデータがなければ精度の高い分析は不可能ですし、ブランド理解や認知度の向上に役立つような成果は望めません。マイクロアドは、他社よりはるかに多くのデータを収集できる体制をすでに積極的な先行投資によって構築済みです。またデータ量が格段に多いのは当社としての決定的なアドバンテージです。膨大なデータを的確に分析して、ある商品を知らないユーザーに的確にアプローチして潜在顧客の獲得に寄与し未来の顧客の潜在需要を引き出せます。それがビッグデータのすごさでもあります。そういう意味で私たちが得意とするブランド広告の領域は、後発企業にとっての参入障壁が高く、マイクロアドは十分な先行者利益を得られるのです。
過去・現在・未来
Q.会社設立や事業の誕生にはどのような経緯があったのですか?
もともとはサイバーエージェントの社内事業としてスタートしました。ただ現在はサイバーエージェントの傘下というわけではありません。事業展開としては、いち早くアドテクノロジーを駆使したウェブ広告事業を手掛け、創業以来の実績によりこの分野の先駆者として知られるようになりました。
Q.その後、他社に先駆けていち早くデータの収集・蓄積やビッグデータのプラットフォーム構築に乗り出していたのですか?
マイクロアドにはとにかく先取り型の思考が根付いています。ドローンがまだ一般的でないうちにドローンを多数飛行させて大空に広告を浮かべる、当時としては斬新なアイデアも提案しました。これは少し早すぎるアイデアになりましたが、常に他社より一歩先を見据えた経営はマイクロアドのDNAです。いまでこそ「20世紀は石油の時代。21世紀はデータの時代」とか「データは21世紀の石油だ」と広く言われるようになる前から、データ活用ビジネスに注目し、思い切った先行投資をしてきたのが、現在の成功につながっています。
Q.そして現在は次のフェーズに向かっているわけですね。
そのとおりです。これからは総合データカンパニーとしてデータ活用を軸とした成長戦略を描いています。
Q. 総合データカンパニーとはどういったものでしょう?
私たちは、マイクロアドがどのような会社かを説明する時に「未来予測をする会社」とお話しています。簡単に言うと、私たちがデジタルマーケティングでおこなっていることは、人々の未来の消費行動を予測して、特定の商品を買う可能性が高い人をデータやAIを駆使して探し出すことです。そしてまた、未来予測をすることで、デジタルマーケティングにとどまらず、さまざまな事業を創出することができると考えています。ちなみに、「総合データカンパニー」とは、マイクロアドの代表である渡辺の造語です。21世紀の石油と言われているデータ。20世紀に石油を加工することでさまざまな産業や商品が生まれたように、今後はデータとAIとの掛け合わせによって多くの新しい産業やサービスが生まれていくと考えています。その会社の最終形を「総合データカンパニー」と呼んでいます。そのため、現在のスローガンとして、「アドテクノロジーの企業から、総合データカンパニーへ」というものを掲げています。
Q.総合データカンパニーについて、もう少し詳しく説明してください。
マイクロアドはこれまでもデータカンパニーではありました。しかしデータを活かす対象分野は主としてインターネット広告の分野に絞っていました。ただしこれからは、収集可能な消費者のライフスタイルに関する膨大なデータを、もっと幅広く活用していこうと考えています。たとえば自動車や住宅の販売データや、レジャー施設の「お出かけ」データなどの、多くのライフスタイル関連データを活用し、需要や販売に関しての予測をおこなっています。この膨大なデータによって導き出されたオルタナティブデータ(※)を活用し、自己資金での株式投資事業も進めています。そのほか、訪日観光客向けのインバウンドプロモーションサービスや、日系企業の海外進出支援としての越境EC事業なども立ち上げています。このように広告以外の領域でもデータビジネスを拡大していくことで、マイクロアドはデータカンパニーから総合データカンパニーへと成長できると考えています。そして、現在は総合データカンパニーとしての基盤を作るための先行投資が、ほぼ完了しています。※オルタナティブデータとは、企業の財務情報や経済統計以外の購買データやスマートフォンの位置情報などのさまざまな分野における投資判断に活用可能なデータを指す
Q.総合データカンパニーとなったマイクロアドは、未来に何をもたらしてくれますか?
会社のビジョンも、インターネット広告事業主体だった頃の「広告を情報へ」から、「Redesigning the Future Life(データとテクノロジーの力で人々の未来の暮らしをよりよくする)」へと変更しており、広告以外の領域、そしてインターネットの外側にも視野を広げていきます。インターネットの外側の、普段の生活そのものを良くする。それが究極の目標です。通勤・通学の移動や、家の中や外での食事、休日のレジャーなど、普通の生活をテクノロジーの力でより良いものにしていきたい。生活の中で、たとえば何を食べてどんな余暇を過ごせば最高なのか。そんな、より豊かな時間を得るための情報を提供できる企業になりたいと願っています。
Shingo Ogata・大学卒業後、総合人材大手エン・ジャパン入社。採用支援コンサルティングや新規事業立ち上げなどを担当。2018年にマイクロアドに人事担当として入社