2018年02月06日(火) 更新
「シェア空間における可能性」
PR企画
これからの建築の可能性
大手不動産デベロッパーとして、オフィスビルや商業施設、マンション開発を手掛ける野村不動産。単体の物件開発だけではなく、首都圏各所で展開する複合開発プロジェクトに見られるように、その手掛ける領域は大きな変化を見せている。
時代の流れに即して役割を変化させる野村不動産は、これからの社会テーマとして「シェア」に着目しているという。野村不動産入社3年目の若手社員である藤田(都市開発事業本部 建築部)、山野辺(住宅事業本部 事業推進二部)は講演に先立ち、「シェアという概念は、社会課題を解決し得る治癒剤である」と語った。様々な社会課題に対し、これからの建築はどうあるべきか。「シェア空間における可能性」と題したテーマをもとに、シェア空間に造詣が深い建築家3名を交え、賀来代表取締役専務執行役員の挨拶から講演会が開催された。
イベント概要
・開催趣旨説明
成瀬友梨(成瀬・猪熊建築設計事務所)
賀来高志(野村不動産 代表取締役専務執行役員)
藤田大樹(野村不動産 都市開発事業本部 建築部)
山野辺賢治(野村不動産 住宅事業本部 事業推進二部)
・ゲストプレゼン
仲俊治(仲建築設計スタジオ)
篠原聡子(空間研究所)
・トークセッション
・質疑応答
「脱・成長社会の場づくり」:成瀬友梨
「成長社会」においては、夫は都心で仕事(会社員)をし、妻は郊外で専業主婦をするという家族像が主流であった。現在高齢者に位置付けられる団塊世代と呼ばれる人口が当時は生産の担い手であったため、労働資本も潤沢で、経済は右肩上がりの好景気の只中。いわゆる「幸せの形」が描きやすく、多くの人がそれを実現可能だという認識があった。しかし現在は終身雇用の後ろ盾がなく収入も不安定な時代にある。世帯構成では共働き世帯も今や普通であり、さらに晩婚化や生涯単身者が増加傾向にあるなど、もはや核家族というものが大多数の目指せる家族像ではなくなっている。
成瀬氏はそのような「成熟社会」では、建築も変わっていく必要があるという。平均世帯人数が3人を切る社会での住まい・少子高齢化の中で求められる福祉施設・縮小する地域を支えるコミュニティ施設など、これまでにない課題を解決していく時代が到来している。如何にして「脱・成長社会の場づくり」に貢献しうるのかが、デベロッパーが抱える「未来」への課題である。
「2つの循環」:仲俊治
世帯あたりの人数が減少を続ける中、高度経済成長期の国家政策の背景にあった「1住宅=1家族」のモデルは破綻しつつあり、これまで家族が担ってきた役割を地域社会で担っていく必要がある。山本理顕氏らは『地域社会圏』(fig.1)という考え方により、これからのあるべき居住の可能性を示している。その中では個人が仕事や小遣い稼ぎなどを行うことで生活の一部を「開く」事により他者と繋がるきっかけが提案されており、仲氏はそれを「Socialな循環:小さな経済」と定義し、食堂付きアパート(fig.2)に始まる自作に一貫して反映させている。
建築的なプログラムによって外に開くことが通念にあるが、無理やりに開かせると矛盾が生じるという。そもそも、「1住宅=1家族」のモデルを前提とした核家族世帯向けの居住専用住宅は、外部に開く必要は無かったからだ。工房付きアパート(fig.3)は、食堂付きアパートと同様に仕事場を併設しつつ、さらに「Ecologicalな循環:パッシブ」をもう一方の循環の定義に据え、環境配慮型の施設を実現している。接地階の仕事場や工房の前面には雨水が利用される緑化ルーバーが目隠しとして設置されており、夏場は涼しい風が運ばれて来る。「このようにして、場のあり方として気持ちいいから開く、その先に地域の人と自然に触れ合えるといった、SocialとEcologicalの循環が掛け合わされたような空間を目指したい」と展望を述べる。
「シェアハウスの多様な様相とその可能性」:篠原聡子
遡ると江戸時代の長屋がそうであったように、井戸というインフラを共有し、その場所で世間話などが日常的に行われるなど、あらゆる観点からシェアというものは伝統的な居住手法の一つであった。篠原氏曰く、シェアとは「空間」はもちろんの事、井戸端会議に見られたような「情報の共有」、更には共同生活に不可欠な作業分担などの「行為の協働」から成り立つものとされる。SHAREyaraicyo(fig.4)は、現代都市に住まうためのオルタナティブなシェア空間(立体長屋)が目指されており、接地階に設けられた「オープン・コモン」の性質を備えた土間は、ギャラリーや勉強会といった多様な用途として使われ、地域とつながる仕掛けが施されている。
モダニズムの思想の中ではあらゆるものを「分離」させる事が社会的な前提にあり、その過程で公/私、家族/他人、職/住、地方/都市のような「分断」が起こり、現代の社会背景が形成された。「これからは分断されてしまった諸要素の混在と連携こそが重要であり、それらをデザインで包括的に解き、更には運営にまで踏み込んだ関わり方を実践していきたい」と話す。
トークセッション
山野辺:集合住宅の変遷を戦後から振り返ると、都心部への人口流入が加速する時期において、大量供給が可能な標準的な間取りが必要とされ、吉武泰水らにより「51C型」(fig.5)モデルが考案されました。都心部に顔なじみのない人たちが集まる中、彼らを収容するにはプライバシーの確保は極めて重要なものであり、同時に、部屋の構成においては人口増加を目論む国家的要請の背景からも、子供達の部屋から夫婦の寝室を独立させる「寝寝分離」は有効でありました。このようにして戦後復興住宅においては、住戸そのものも、部屋の構成原理も、プライバシーの確保が最優先に考えられた構成となったのです。
そこから団地建設ラッシュが加速し、DKを備える「51C型」の間取りが普及します。時代は高度成長期に差し掛かり、政府は「1住宅=1家族」を推奨し、住宅購入を促進して更なる経済の活性化を目論んでいました。「夫は働きに出かけ、妻は子供老人の世話をし、夫の帰りを待つ」という一般的な家族構成のモデルです。このようにして「nLDK」のプランが標準化されてきましたが、隣人との関わり合いや、お互いに助け合うといった関係が希薄になる結果となってしまいました。家族構成が多様化した現代においては「1住宅=1家族」のモデルは破綻してきています。
ここからは、家族以外のコミュニティなどが重要性を増すという前提から「所属」、分断されてしまった諸要素の混在と連携が求められる時代の中での「混合」、それらを考える上でのハードとなる建築の「境界」の3点をテーマに挙げ、如何にして「標準からの脱却」が可能かを議論していきたいと思います。
「所属」について
藤田:「所属」を考える上で、同潤会の江戸川アパート(fig.6)を引用したいと思います。この集合住宅では、形状が異なる37ものプランバリエーションを持つ126戸の家族部屋がある一方、同じ敷地内に独身部屋が131戸も混在していました。これにより、この独身部屋を家族世帯の父親が書斎として借りたり、成人した子どもの単身部屋として借りたりと、ライフステージの変化に応じて自然なかたちでの内部移転が習慣化されていました。そうすると、個々人において家族や独身といった「所属」が多層化することになります。工房付きアパートには勝手口を含む出入口が3つ設けられており、仲さんにその理由を聞くと、思春期の子どもがこっそり帰ってくる場所も必要なのではないか、というお話をされていました。プライバシーやプライベートの棲み分けに関して、考えをお聞かせ下さい。
仲:アクセスの話は非常に重要ですし、建築がライフスタイルに影響を与えられる一例です。同潤会の内部移転が円滑にできたのは、階段室型と廊下型の複合で出来ていたからだと考えます。各棟の階段室の上階2層分が廊下で繋がっているので、棟内において横断的なアクセスが可能となっており、それが上述された多様な「所属」をハード面から支えていました。
プライバシーの作り込みというのは実はそれほど難しくなくて、極論を言うと閉じてしまえばいいわけです。集合住宅になると出入口が一つになってしまうというのには違和感を覚えており、どのようにアクセスさせるか、どこに開くか、住宅の内部においても開閉の機構をどう担保するか、ということを考えることが「所属」の多層化という観点からも重要と考えます。
藤田:「フレキシブルさ」や「柔軟さ」を予め設定しておくというイメージですね。
成瀬:集合住宅におけるプライバシーの在り方について、最近よく考えさせられます。共働きをしながら子育てをしていると、ベビーシッターをお願いすることもあり、外部の人が戸内に入るということもあります。介護にも当てはまる話ですが、洗面所は使って頂かないといけないが洗濯物は見せたくない、リビングには大事なものがあるのでセキュリティはどうしようかなど、どの領域まで外部の人に使ってもらうのか、というのは非常に難しい課題です。今の集合住宅はそうした課題に追従できておらず、その辺りはまだまだ考える余地があります。「ここで線を引く」のではなく可変性を持たせておくことは、ライフステージが変わっていく中でも愛され続ける住まいを作るには必要なことだと思います。
山野辺:集合住宅においても世帯が多様化する中で、個々人の「所属」を考える必要があると考えます。篠原さんはコミュニティの研究を継続されてますが、多世代を包括するようなコミュニティを形成しようとするとどのような可能性が考えられますか。
篠原:多世代が一緒にいることは重要であると同時にとても難しいことです。ただ、お祭りのような一つの大きなイベントを通じて、非日常の中で様々な仕掛けは施せると思います。また日向ぼっこができるような身体的に気持ち良い場所を作り出せれば、小学生と高齢者が居合わせることも可能です。大きなスケールとしての祭事と、小さなスケールとしての居場所をうまく連携させることができるといいと思います。
藤田:お祭りの話でいうと、小学生は高齢者から竹トンボの作り方などを教わるなどして技術が習得できます。一方高齢者が小学生のような異世代と関わり合う利点については、福祉楽団の飯田大輔氏は「ケアされる側」から「ケアする側」へのスイッチが起き、高齢者が能動的になることにあるというお話しをされていました。仲さんは福祉施設を手がけられる中で、被介護者の能動性を刺激させるような工夫は考えられていますか。
仲:重度の知的障害者の施設の設計に携わった経験からは、被介護者が「ケアする側」に回るというのは考えにくいですね。ただ、成瀬さんが前述されていたような、住宅の中に他者が入れる環境を考えるという話は、同時に、被介護者の能動性を受け入れやすい空間を考えるという話に繋がるのかもしれません。「ケアされる側」の人が「ケアする側」に役割を円滑にスイッチさせられるような寛容性のある空間を考える際に、やはり住戸アクセスの数や、建具による空間の可変性などがキーワードになるのではないかと思います。
「混合」について
藤田:同潤会の不良住宅地区改良事業の一環とされた猿江アパート(fig.7)では、善隣館という福祉施設があり、隣の敷地には保育園や病院が建設されていました。敷地内には店舗併用住宅があったり、手に職のない居住者に職業訓練と手間賃稼ぎの機会を創出させる目的から、中庭にはござ工場が整備されていました。更にそれらのござから得られたお金は、当時同潤会が管理していた住宅の管理や改修にも充てられていました。いわゆる「小さな経済」が回されていたわけです。店舗併用住宅(SOHO)などの取り組みを東雲キャナルコート(fig.8)に見ることができますが、実際のところ、職と住の「混合」はうまく機能しているのでしょうか。
仲:私がまさに山本理顕氏に師事していた頃に東雲キャナルコートがプロジェクトとして動いていました。氏があそこでやろうとしたのは、仕切りを変えることで仕事場と住む場所に可変性を持たせるということです。今年見にいきましたが、SOHOタイプはうまく使われていたように感じました。「小さな経済」と謳っていますが、必ずしもお金を回さないといけないということではありません。地域社会圏で提案した「ミセ」の考え方にも通じますが、他者を受け入れる場所が家の中にあるということが大切なのです。土間のような機能を取り戻すようなイメージかもしれません。
藤田:「小さな経済」について、海外の事例はご存知でしょうか。
篠原:バンコクを回った時に「ショップハウス」(fig.9)という伝統的な住宅を視察しました。アーティストや写真家が興味本位で住み始め、だんだんと屋上の使われ方が変化していった事例です。当初、この建物の屋上は単純な横つながりのパブリックなものだったのですが、一度屋上が居住者によって占有化された経緯があり、その後、人の入れ替えに伴い横の繋がり、つまりコモンとして再解釈される場が出来上がりました。屋上に白いペンキで塗られている壁があるのですが、ここでは映画鑑賞などが行われたり、一度占有化されたものが、一気通貫にコモンとして共有する方が楽しいということに気がついたらしく、屋上でシェアが始まったわけです。
もう一つは水上住宅(fig.10)の事例です。目前が川になっており、船がゴミを取りに来たり物を売りに来たりしています。ここでは、一つの住宅がアーティストハウスという名目で改修されて小さなシアターになった経緯があり、その辺りから各住宅のピア(桟橋)が連続的に使われるようになりました。プライベートであったものがパブリックに変わっていった事例で、カフェとして使われているところもあるし住宅のままのところもありますが、「横に通れた方が便利」ということに気づいたらしく、そもそもプライベートなものが住みこなしの中でパブリックになっていくような、先ほどとは逆の事例として興味深いものがあります。
山野辺:空間を占有化することで、自分のものという帰属意識が生まれてくるのでしょうか。今の集合住宅の共用部では、自分のものという意識がどうしても弱く、誰も使わない空間が生まれてしまうのかなと、この事例を見て感じました。
篠原:東ドイツのライネフェルデの団地再生(fig.11)では、テラスをつくるなどして、パブリックであったものを占有化しています。占有化することによって、その接地階が大きなテラスと庭を持って中庭に面しており、「領域をはっきりさせて開く」という考え方もあるのだと思います。
「境界」について
山野辺:日本の伝統的な居住形態である民家の田の字プランでは、あまり壁がなく、境界には襖や障子のような可変的な仕切りを用いることで、お葬式などの行事も家で行うことができました。日常的な個室と大きな空間が多用途に順応するような作りになっており、プライベートとコモン、パブリックがうまく機能していました。
藤田:仲さんの食堂付きアパートや工房付きアパートでは、「プライベート/コモン/パブリック」といったようにグラデーショナルな領域の棲み分けがなされており、プランを図式的に解かれている印象を受けました。山本氏の保田窪団地(fig.12)においては、「パブリック/プライベート/コモン」という閾論に基づく強烈な配列が伺えますが、図式的に解くということに関して山本氏からの影響があるのか否か、考えをお聞かせください。
仲:それはレッテル貼りというものです(笑)。図式は意識しますし、重視しています。しかし一方で、よくある二元論的な図式に則らないところや、図式の太い線が何を意味するのかを考えることこそが面白いのかなと思います。前述したように「半開き」というものをテーマに掲げているのもそうですし、大きな軒を出したり、植物のルーバーを設置したり、60年前の引き戸を利用したりと、図式の囲っている太い線を有機的なものにして滲ませることに興味があります。
藤田:一方、篠原さんのSHAREyaraicyoでは、「プライベート/コモンorパブリック」というように、土間の存在がコモンの役割も担う一方で、地域に開かれる場所にもなります。オープン・コモンの考え方についてお聞かせください。
篠原:北京に胡同(フートン) (fig.13)という住宅街があり、そこに都市に人口が集中した1900年代初めくらいに作られた低層の集合住宅があります。ここでは路地に面して壁が巡らされ、プライベートを完全に閉じているのですが、逆に安心して路地にソファや家具が置かれており、共有部での豊かな住みこなしが見られました。また、いろいろなシェアハウスを見ていても、他人同士が住むのでプライベートは完全に閉じてしまった方が、逆に共有部は外に開ける気がしています。難波和彦氏がSHAREyaraicyoに来た時に「個人の領域が閉じすぎている」と仰っていましたが(笑)、個人の領域を緩くすることによって、全体的にコモンスペースがプライベートな領域に巻き込まれるとすると、外に開きにくくなると感じています。
成瀬:きちんとプライバシーが守られている感覚がないと、人とオープンに安心して接することができないように思います。LT城西(fig.14)では、共用部に面した窓を個室に開けるか否かという議論が最後まで残りました。結局は「そこまで混ぜなくていいのではないか」という結論に至り、窓を設けず、個室のドアも共用部から極力見えないようにしました。
篠原:プライバシーというのは、基本的には「距離」で取るものなのだと思います。51C型がなぜあれほどまでに閉じてしまっているかというと、「距離」がないからなのです。工房付きアパートの個室には、引き戸を開けると少し距離がとられて勉強スペースがあり、その奥に寝るスペースがあります。引き戸とその背後の空間があることにより、「距離」がきちんと取られ、プライバシーが守られているのだなという印象があります。SHAREyaraicyoはパブリックに面して個室があるので、意図的に閉じたわけです。
藤田:その代わり土間空間のボリュームは、コモンとパブリックを同時に受け入れる大きさで決定されたわけですね。
成瀬:空間のボリューム、つまり気積というのはとても大切だと思います。少し人と住むのに抵抗があるような人でも快適に過ごせる空間を作りたいと思っていて、そうなると水平的な「距離」感だけでなく「空気の大きさ」が大事になり、それが小さいと息苦しくなって居心地が悪いと感じてしまいます。だから気積はデリケートに設計すべきだと思っています。
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